それと

2012年6月13日
「おかみさん、もう此方
こつち
へ帰つて来たんですか。」
「いゝえ。まだあつちに居ます。」
「あつちとは。あの、行徳ですか。」
「えゝ。」
「ぢや、あれツきり分らないんですか。」
「いつそ分らない方がいいくらゐでした。警察で大勢の死骸と一緒に焼いてしまつたんだらうツて云ふはなしです。」
「運命だから仕方がありませんよ。わたしの方も今だにわからずじまひですよ。」
「お互にあきらめをつけるより仕様がありませんねえ。わたし達ばつかりぢやないんですから。」
「さうですとも。あなたの方が子供さんが助かつただけでも、どんなに仕合せだか知れませんよ。わたしに比べれば……。」
「思出すと夢ですわね。」
「何か好い商売を見つけましたか。」
「飴を売つて歩きます。野菜も時々持つて出るんですよ。子供の食料代だけでもと思ひまして……。」
「わたしも御覧の通りさ。行徳なら市川からは一またぎだ。好い商売があつたら知らせて上げませうよ。番地は……。」

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