それと
2012年6月13日「南行徳町□□の藤田ツていふ家です。八幡行のバスがあるんですよ。それに乗つて相川ツて云ふ停留場で下りて、おきゝになればすぐ分ります。百姓してゐる家です。」
「その中お尋ねしませうよ。」
「洲崎前の郵便局に少しばかりですけど、お金が預けてあるんですよ。取れないもんでせうか。」
「取れますとも。何処の郵便局でも取れます。罹災者ですもの。通帳があれば。」
「通帳は家の人が持つて行つたきりですの。」
「それア困つたな。でもいゝでさ。あつちへ行つた時きいて上げませう。」
「済みません。いろ/\御世話さまです。」
「これから今日はどつちの方面です。」
「上野の方へでも行つて見やうかOut Personals 評判と思つてゐます。広小路から池の端の方はぽつ/\焼残つたとこもあるさうですから。」
「ぢや、一ツしよに一廻りして見やうぢやありませんか。下谷も上野寄りは焼けないさうですよ。」
時候もよし天気もよし。二人は話しながら焼け残つた町々を売りあるくと、案外よく売れて、山下に来かゝつた時には飴はいつか残り少く、箒は一本もなくなり、笊が三ツ残つたばかりであつた。停車場前の石段に腰をかけて二人は携帯の弁当包をひらき、またもや一ツしよに握飯を食べはじめた。
「その中お尋ねしませうよ。」
「洲崎前の郵便局に少しばかりですけど、お金が預けてあるんですよ。取れないもんでせうか。」
「取れますとも。何処の郵便局でも取れます。罹災者ですもの。通帳があれば。」
「通帳は家の人が持つて行つたきりですの。」
「それア困つたな。でもいゝでさ。あつちへ行つた時きいて上げませう。」
「済みません。いろ/\御世話さまです。」
「これから今日はどつちの方面です。」
「上野の方へでも行つて見やうかOut Personals 評判と思つてゐます。広小路から池の端の方はぽつ/\焼残つたとこもあるさうですから。」
「ぢや、一ツしよに一廻りして見やうぢやありませんか。下谷も上野寄りは焼けないさうですよ。」
時候もよし天気もよし。二人は話しながら焼け残つた町々を売りあるくと、案外よく売れて、山下に来かゝつた時には飴はいつか残り少く、箒は一本もなくなり、笊が三ツ残つたばかりであつた。停車場前の石段に腰をかけて二人は携帯の弁当包をひらき、またもや一ツしよに握飯を食べはじめた。
それと
2012年6月13日「おかみさん、もう此方
こつち
へ帰つて来たんですか。」
「いゝえ。まだあつちに居ます。」
「あつちとは。あの、行徳ですか。」
「えゝ。」
「ぢや、あれツきり分らないんですか。」
「いつそ分らない方がいいくらゐでした。警察で大勢の死骸と一緒に焼いてしまつたんだらうツて云ふはなしです。」
「運命だから仕方がありませんよ。わたしの方も今だにわからずじまひですよ。」
「お互にあきらめをつけるより仕様がありませんねえ。わたし達ばつかりぢやないんですから。」
「さうですとも。あなたの方が子供さんが助かつただけでも、どんなに仕合せだか知れませんよ。わたしに比べれば……。」
「思出すと夢ですわね。」
「何か好い商売を見つけましたか。」
「飴を売つて歩きます。野菜も時々持つて出るんですよ。子供の食料代だけでもと思ひまして……。」
「わたしも御覧の通りさ。行徳なら市川からは一またぎだ。好い商売があつたら知らせて上げませうよ。番地は……。」
こつち
へ帰つて来たんですか。」
「いゝえ。まだあつちに居ます。」
「あつちとは。あの、行徳ですか。」
「えゝ。」
「ぢや、あれツきり分らないんですか。」
「いつそ分らない方がいいくらゐでした。警察で大勢の死骸と一緒に焼いてしまつたんだらうツて云ふはなしです。」
「運命だから仕方がありませんよ。わたしの方も今だにわからずじまひですよ。」
「お互にあきらめをつけるより仕様がありませんねえ。わたし達ばつかりぢやないんですから。」
「さうですとも。あなたの方が子供さんが助かつただけでも、どんなに仕合せだか知れませんよ。わたしに比べれば……。」
「思出すと夢ですわね。」
「何か好い商売を見つけましたか。」
「飴を売つて歩きます。野菜も時々持つて出るんですよ。子供の食料代だけでもと思ひまして……。」
「わたしも御覧の通りさ。行徳なら市川からは一またぎだ。好い商売があつたら知らせて上げませうよ。番地は……。」
した
2012年6月13日火災を免れた市川の町では国府台の森の若葉が日に日に青く、真間川堤の桜の花もいつの間
ま
にか散つてしまつたころである。佐藤は或日いつものやうに笊を背負ひ、束
たば
ねた箒をかついで省線浅草橋の駅から橋だもとへ出た時、焼出されの其朝、葛西橋の下で、いつしよに炊出しの握飯を食つて、其儘別れたおかみさんが、同じ電車から降りたものらしく、一歩
ひとあし
先へ歩いて行くのに出会つた。
わけもなく其日の事が思出されて、佐藤は後から、「もし、おかみさん。」と呼びかけた。Adult friend finder 評判
「あら。あの時はいろ/\お世話さまになりました。」
振返るおかみさんの顔にも同じやうな心持が浮んでゐる。見れば葛西橋下で初て見た時よりも今日はずつと好い女になつてゐる。年は二十二三。子供をつれてゐないので、まだ結婚しない女とも見れば見られる若々しさ。頬かぶりをしたタオルの下から縮
ちゞら
し髪の垂れかゝる細面
ほそおもて
は、色も白く、口元にはこぼれるやうな愛嬌がある。仕立直しのモンペ姿もきちんとして、何やら四角な風呂敷包を背負つた様子は、買出しでなければ、自分と同じやうに行商でもしてゐるのかと思はれた。Adult friend finder 評判
ま
にか散つてしまつたころである。佐藤は或日いつものやうに笊を背負ひ、束
たば
ねた箒をかついで省線浅草橋の駅から橋だもとへ出た時、焼出されの其朝、葛西橋の下で、いつしよに炊出しの握飯を食つて、其儘別れたおかみさんが、同じ電車から降りたものらしく、一歩
ひとあし
先へ歩いて行くのに出会つた。
わけもなく其日の事が思出されて、佐藤は後から、「もし、おかみさん。」と呼びかけた。Adult friend finder 評判
「あら。あの時はいろ/\お世話さまになりました。」
振返るおかみさんの顔にも同じやうな心持が浮んでゐる。見れば葛西橋下で初て見た時よりも今日はずつと好い女になつてゐる。年は二十二三。子供をつれてゐないので、まだ結婚しない女とも見れば見られる若々しさ。頬かぶりをしたタオルの下から縮
ちゞら
し髪の垂れかゝる細面
ほそおもて
は、色も白く、口元にはこぼれるやうな愛嬌がある。仕立直しのモンペ姿もきちんとして、何やら四角な風呂敷包を背負つた様子は、買出しでなければ、自分と同じやうに行商でもしてゐるのかと思はれた。Adult friend finder 評判
でも
2012年6月13日「成田ですか。それぢや、どの道一度町会へ行つて証明書を貰つて来た方がいゝでせう。一休みしてわたしも行つて見やうと思つてゐるんですよ。わたしは古石場にゐました。」
「あの、もう一軒、行徳に心安いとこがあるんです。そこへ行つて見やうかと思つてゐます。」
「行徳なら歩いて行けますよ。この近辺の避難所なんかへ行くよりか、さうした方がよかアありませんか。わたしも市川に知つた家がありますからね。あの辺はどんな様子か、行つて見た上で、考へやうと思つてるんです。もうかうなつたら、乞食同様でさ。仕様がありませんよ。」
佐藤も途方に暮れた目指
まなざし
を風の鳴りひゞく空の方へ向けた時、堤防の上から、
「炊出しがありますから町会まで取りに来て下さアい。」と呼び歩く声がきこえた。
佐藤は市川で笊
ざる
や籠をつくつて卸売をしてゐる家の主人とは商売柄心やすくしてゐたので、頼み込んで其家の一間を貸してもらつた。そして竹細工の手つだひをしたり、また近処の家でつくる高箒
たかばうき
を背負つたりして、時々東京へ売りに行つた。その都度
つど
もと住んでゐた町会へも立寄り、女房子供の生死を調べたが手がゝりがなかつた。せめて死骸のありさうな場所だけでもと思つたがそれも分らずじまひであつた。
「あの、もう一軒、行徳に心安いとこがあるんです。そこへ行つて見やうかと思つてゐます。」
「行徳なら歩いて行けますよ。この近辺の避難所なんかへ行くよりか、さうした方がよかアありませんか。わたしも市川に知つた家がありますからね。あの辺はどんな様子か、行つて見た上で、考へやうと思つてるんです。もうかうなつたら、乞食同様でさ。仕様がありませんよ。」
佐藤も途方に暮れた目指
まなざし
を風の鳴りひゞく空の方へ向けた時、堤防の上から、
「炊出しがありますから町会まで取りに来て下さアい。」と呼び歩く声がきこえた。
佐藤は市川で笊
ざる
や籠をつくつて卸売をしてゐる家の主人とは商売柄心やすくしてゐたので、頼み込んで其家の一間を貸してもらつた。そして竹細工の手つだひをしたり、また近処の家でつくる高箒
たかばうき
を背負つたりして、時々東京へ売りに行つた。その都度
つど
もと住んでゐた町会へも立寄り、女房子供の生死を調べたが手がゝりがなかつた。せめて死骸のありさうな場所だけでもと思つたがそれも分らずじまひであつた。